Rock Legends
Episode 09

フィル・スペクター・イヤーズ

ライチャス・ブラザーズ、ザ・ロネッツ他

ポップ

ロックの歴史を辿るドキュメンタリー・シリーズ番組。今回は「ウォール・オブ・サウンド」を生み出したフィル・スペクターがプロデュースしたロネッツ、ライチャス・ブラザーズ、シュレルズなど特集。

いまだ多くのミュージシャンたちが、自分たちの作品に取り入れようとしているほど、フィル・スペクターが創造したウォール・オブ・サウンドは魔力を秘めています。ブルース・スプリングスティーンもスペクターの影響を受けていると公言していますし、オリノコ・フロウのエンヤもアレンジをしたニッキー・ライアンがウォール・オブ・サウンド風のアプローチをしたと語っています。大瀧詠一は、日本での、その筆頭でしょう。また、山下達郎の作品も影響を受けていることは明らかです。 では、そのウォール・オブ・サウンドとは、どういうものなのでしょうか。モータウン・サウンドのように、明確な演奏スタイルではなく、独特の録音スタイルなのです。さらに、ジャック・ニッチェや、ペリー・ボトキン・ジュニアたちのユニークなアレンジも、サウンド作りに大きく貢献していることは言うまでもありません。 ウォール・オブ・サウンドとは、「当時としては珍しい多重録音と巧みなエコー処理により、まるで音の壁のようなぶ厚く、迫力のあるサウンドのこと」という意味合いの解説が多く見られます。しかし、多重録音を確立したのは、ギタリストのレス・ポールで、妻のメリー・フォードと組んだ多重録音による最初のヒット曲「ノラ」は、1950年のレコードでした。同じ年に大ヒットしたパティー・ペイジの「テネシー・ワルツ」も多重録音によるひとりデュオです。さらに、レス・ポールは1953年に8トラック・レコーダーを完成させています。このことからも、60年代に入って「多重録音」はすでに珍しいものではなくなっていた、といっていいでしょう。 それはさておき、ウォール・オブ・サウンドは、けっして多重録音のことではありません。おそらく「音を重ねる」という言葉がいつの間にか、「多重録音」という言葉にすり替わってしまったようです。 普通、ピアノ、ベース、ギターなどのリズム楽器は1台づつしか用意しません。しかし、スペクターは、それぞれ複数用意し、ユニゾンで弾かせることにより十分な音量と音圧を得ようとしました。つまり、「ユニゾンで弾かせる」という意味で 「音を重ねる」を用いた、と考えたほうが自然です。さらに、基本的なバック・トラック、つまり、リズム・セクションとホーン・セクションはワン・トラックによるライヴ(一発録音)でした。 スペクター・サウンドのすべてを手掛けた、エンジニアのラリー・レヴィンの話によれば、レコーディングは、ギターから始めるのだそうです。1時間ほど2~4小節を繰返し演奏しては、スペクターがそれを聴いては変更を加え、また演奏するというように、リズムのフィギュアに満足するまで、何度も繰りかえします。つぎに、ピアノを加え、同じようにギターとぴったりいくまで繰りかえします。そして、ベースでしめ、ホーンとドラムスはツメで決めた、といっています。個々の楽器の音の輪郭がとれ、溶け込んで一体となる、これがウォール・オブ・サウンドの正体です。さらに、渾然一体となった音のかたまりから、特定の音を浮かび上がらせることで、よりきらびやかな輝きをます効果もあります

また、フィル・スペクターが、モノラル・サウンドにこだわり続けたのは、音をひとつのかたまりとして感じてもらいたい、と思っていて、ステレオによる楽器の分散はウォール・オブ・サウンドに相いれないと考えていたからでした。でも、チェックメイツLTD.の作品を聴くかぎり、ウォール・オブ・サウンドもステレオでも充分存在しうることを証明しています。 エコー処理は、ウォール・オブ・サウンドの本質的なテクニックではありません。確かに、深いエコーをかけることでウォール・オブ・サウンド風に聞こえることもありますが、下手な歌もエコーをかけると上手く聞こえると同様、似て非なるものといえるでしょう。ラリー・レヴィンは言っています。「ほとんどの人が、エコーだと思ってたらいしけど、そうではない。」 そのエコーと勘違いさせたのは、ゴールドスター・スタジオの音響特性によるものといわれています。たった22x50フィート、天井まで12フィートのスタジオに18人から23人ものミュージシャンが一度に録音するため、本来拾ってはいけない楽器の音をマイクが拾ってしまうリーケッジを防ぐ方法がなかったといいます。しかし、そのリーケッジがエコーにも似た独自のサウンドを作っていたのでした。もちろん、エコーは使っていましたが、それはスパイスのようなものといえるでしょう。 後期の作品は、より壮大なサウンドになり、バック・コーラスもクワイヤーのように聞こえ、まさにロック・シンフォニーと呼ぶにふさわしいものになります。一説によると、チェックメイツLTD.の録音には、のべ300人以上のミュージシャンを使ったといいます。が、けっして壮大にすることがウォール・オブ・サウンドの意味ではないと思っています。ただ、ウォール・オブ・サウンドの内包された宿命的結果であり、行き着くところまで行ってしまった悲劇ではないでしょうか。 とはいえ、スペクターのウォール・オブ・サウンドは、ビートルズを始めとして、その後のレコード制作の方法に大きな影響を与えたのは事実です。

ザ・ロネッツThe Ronettes)は、ニューヨーク出身の1960年代の女性歌手グループ。フィル・スペクターのプロデュースで知られる。

代表曲は、「ビー・マイ・ベイビー」「ベイビー・アイ・ラブ・ユー」「恋の雨音」「(The Best Part of) Breakin' Up」など。

リードシンガーのヴェロニカ・ベネット(別名ロニー・スペクター)が「ローリング・ストーンの選ぶ歴史上最も偉大な100人のシンガー」において第69位にランクインしている[1]

ライチャス・ブラザーズ (The Righteous Brothers) は、アメリカ合衆国のデュオ。いわゆるブルー・アイド・ソウルの代表格で、1960年代に「ふられた気持」や「ひき潮」「アンチェインド・メロディ」などのヒット曲で有名。2003年に、ロックの殿堂入りを果たした。

シュレルズ (The Shirelles)は、1960年代前半のアメリカのガールズ・グループ。


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